市民農園

抽選だったから、当たらないかもしれないと思って期待していなかった。震災で津波がめちゃめちゃにしていった市民農園が再開した。抽選なので期待はしていなかった。あの農園の裏手に白鳥の飛来地になっている大きな沼があった。津波の後かなり日が経ってから沼の水を抜いて水底に沈んだ乗用車やトラック、コンテナを引き上げた。その一台の車の助手席にアタッシュケースが置かれていた。きっと運転中に津波に襲われて流れてきたのだろう。人影はすでになかった。生きておられるのだろうか。あの様子では、きっと・・・・・・。命の抜け殻の気配だけが残っている。そんな場所になっていた。


私にとってこの市民農園は家族に安全な食べ物を食べさせたくて借りた家庭菜園だった。転勤するたびにどこかに畑を借りて種をまいた。この街ではこの市民農園が私の居場所だった。地震の春も抽選で利用が決まっていた。

又、春の光の中で家族のために種をまこう。土に触れて、草の香りをいっぱいに吸い込もう。一歩前に歩き出そう。あの車の沈んでいた沼にまた水が満たされているのだろうか。あの日から訪れてはいない。種をまく前に祈りをささげに行こうと思う。