君は春の歌を聴いたのか

四月は爺の旅立った日を抱えている。暦の中のその日の文字を見ると、いつもどんな思いで旅立っていったのかなあと思う。彼の人生は満足のいくものだったのだろうか。悲しみの多い人生であったことだろう。最後に見た風景はなんだったのだろうか。遠く異国で亡くなって、白いお骨になって戻ってきた彼の人生を思う時、娘の私は、かける言葉も持てない。ただ、あなたは春の歌を聴いたのかと、つぶやく。あなたは生きたいように生きたのだろうか。ならば、私が何を悲しむこともない。ただ自分の悲しみを悲しむことは許してほしい。私は、彼を失ったことを嘆く。春は私にとって次々に、いとおしい者たちが旅だっていった季節だ。