光がほしい

光がほしい

 「もっと光を」と最期の言葉を残して去って逝ったゲーテ。光がほしいかったのは彼の心だったのか、それとも視力が失われてゆくプロセスだったのか、初めてその言葉に出会った幼かった私は考えた。次の言葉が「硝子戸をあけてくれ」なのだが単純に暗かったということだけなのだろうか。
それからたくさんの人の死の同行をして、この言葉が出せるほどの穏やかな死はなかなか得難いものだと知った。なんと多くのあきらめと、もどかしさを人は抱えて死んでゆくことだろうか。死に至る前に、自分の人生の締めくくりをするだけの時間が持てたら、人は自らの命の終わりに執着することなく、光に向かってゆくことができるのかもしれない。