バラの無人販売店

 ちょっとしゃれた小さなスタジオがある。二つのガラス張りの部屋が道路に面している。片方は貸しスペース。もう片方はレイアウトがされていて、バラの花が置いてある。無人販売のお店。勝手にバラを選び伝票に購入品目と本数を書き、合計金額を添えてボックスに入れて自分で新聞紙にくるんで持ち帰る。バラ園を経営している人が始めたらしくて、連絡先が書いてあり、ブーケや、ラッピングの注文も受け付けてくれる。この前友人の送別会に大きなバラの花束をここから送った。幾種類ものバラを抱えきれるギリギリの大きさに束ねて、可愛いいリボンで結んでもらった。

 こんなお店がお商売できるようになったのか、と思った。誰も盗んでいかないし、誰も壊したりはしない。信頼感があるからできることなのだよねと、防犯のことは何も知らないから言えることかもしれないけれど。

 暮らしの中に花があることがうれしくて、バラを買った。亡くなったBABAがバラが好きで、小さな庭にバラを植えて楽しんでいた。バラは手入れを怠るとすぐ先祖帰りをするから、無精者には向かないとよく言われた。
 麦ハウスに帰ったら、バラをたくさん植えるからねとひそかに私は楽しみにしている。麦ハウスにもどれたら、庭の半分を野菜畑にしてあと半分にはバラを植える。きっとやろうと思う。小さな夢が膨らんだら、明日に夢がないと悲しむこともないだろう。身の回りで次々と人が亡くなっていくのを見ていると、自分に確実に明日があるとは思えなくなってくる。私がこのままいなくなったら周りはどんなにか後始末に苦労するだろうなと思うと、もう少し整理してから死ぬのでなければ困る。神様、まだその時は来ません、と叫びたくなるよ。