今年

 今年の中でうれしかったことは、姫とホテルをとっての美術館巡りを何度かしたこと。姪の結婚式があって親分ともゆっくり美術館を巡ることができた。それはそれでくたびれたが楽しいこともあった。かつて若かった自分たちが暮らしていた街の中に立ってみるとあのころの暮らしや、若かった自分たちが戻ってきて、甘酸っぱい思いになる。とにかくお金がなかったから交通費を捻出するとぎりぎりの予算でそれでも楽しさだけはいっぱいあった。
 今はお金のことはあまり考えなくてもよいけれど、体力的に限界が来るようになった。なんとまあ人の欲望というものはこうやって限界が決められてほどほどになっているものなのだな。何一つ持ってはいけないのに、終わり間近になってもまだあれこれとほしいものやりたいことが見つかってしまう。物欲が最後まで残るのだろうか。
 何ももう欲しくはないし、必要ないという人に出会うと、うらやましいなと思ったりする。私はまだその境地に達することができない。自分の気に入った意匠のものを見かけるとつい手が出てしまう。今とても気に入っているのはヘブライ文字数字が文字盤に刻まれたイスラエルの時計。ムーブメントは日本の有名メーカーなので安心。教文館で購入した。シンプルでおさまりがよくとても心が和む。ささやかに自分のこの一年の仕事の報酬の中から買った。
 働いている人にとってはちゃんちゃらおかしいだろうけれど、自分のためにお金を使うことは私の立場ではあまりないこと。母親であり、主婦である以上ごく普通の感覚だと思う。特に子供たちに教育費がかかる時期は、そのために働いてそっくり通帳から引き去りされていたから、自分の報酬は自分のためにはないも同然だった。
 今、教育費が必要なのは一人だけだからそういう意味ではとてもリッチな気分になる。今年一年は良く働いたし、よいものをたくさん見たからもうそれだけで幸せ。
 もしかしたらとてもわがままに生きてきたのかもしれないなと思う。自分の意に染まないことは極力避けて、長いものには巻かれないようにして生きてきたから。あちこちでぶつかりながら、それでもめげないで自分らしさを生き続けてきた。
 貧しいことも、悲しいことも、力不足もみなあいまって私を育ててくれたと思う。我慢強く生きてきたと思う。いいじゃないこの生き方もと自分に向かっていえることは幸せなのだと思う。
 もう少し、あなたこの道を歩けるかしらと、自分に聞いてみる。答えはまだわからないけれど・・・・