香りを放つ植物が好きだ。

 ハーブが好きだ。地味な花なのに、風が吹くと何の花かすぐ分かる。かすかに匂いのついた風が通り過ぎていくとき、一瞬風の帯があるように感じる。その感覚が好きだ。風の中の香りの帯を強く感じたのは、かつて住んでいた盛岡でのこと。岩手大学の構内に、甘いミルクティーの風の帯が流れる場所があった。はじめは何の香りか判らずその香りが強い時間帯を探しては何度も通った。
 そんなとき「浄法寺には甘い香りの大木がある」という話を寂聴さんが語っているのを聞いた。もしかしたら同じ香りの木がほかにもあるかもしれない。街の中を歩きながら同じ香りを探した。そしてとうとうその木の名前が「桂」であることを知った。大きな天まで届くような高い木で、個人の庭にはよほどの敷地がなければ無理だろうと思った。それでもいつかこの木を自分の身のそばに持ちたいと思った。
 昨年建て直された私たちの教会の庭にシンボルツリーが植えられた。思いがけないことに、それは桂だった。いつの日にか天高く梢を伸ばし夕暮れにはあの濃厚なミルクティーの香りを風に流すようになるのだろうか。木の葉に香りの成分があるという。まだ若木で枝も葉も少ない。細細としたこの木のどこにあんな強さがあるのかと思うが、人間の寿命を超えて育ってほしい。こんな形で私の願いがかなえられた。