もう過ぐ旅立たれるのを感じながら

冬の空 風花が舞う

 いつもと同じ訪問を重ねている。最早会話が噛みあうことも少なく、かろうじてこちらが誰かわかっているようであるという関係の中で、生活の必要最低限の援助をしている。言いたいこと感じていることはきっとたくさんたまっているだろうけれど、今の気持ちを聞くことは至難の業。今、言葉にならない不安や心細さをいかに受容したら良いのか。抱えれば壊れそうな小さな体を横たえて、それを見守るしか今の私にはできない。人はこうやって自分の気持を表現できなくなってやがてあの世とこの世の境を超えてゆくのだなあと思う。最後まで何か伝えるべきことを持っている人は幸せなのだと思う。最早伝えるべき相手もおらず、全くの他人に仕事としてしか関わってもらえない沢山の人達を見てきた。言い残したこと、伝え切れなかったことはその胸の中に畳み込まれたまま消えていった。あなたはどう死んでいきたかったのですか、と。私はいつも思う。ターミナルケアは相手の立場になればなるほど、先の見えないモヤの中に吸い込まれる気分になる。悲しみはその後からやってくる。