時を手繰り寄せたい

雑木が春に手を伸ばす


車を運転していて
ふと見た街角の風景に
泣きたくなる時がある。


あの子を見失ってから
もうずいぶん時が過ぎていったのに
私の中にあの瞬間の思いが凍りついていて
目の端に飛び込んできた何かが
閉ざしている扉を開く


涙は溢れてきて
凍らせた記憶を溶かす
かつて呼び慣れていたように
私は、あの子の名前を呼ぶ
見失ってしまったあの瞬間を思い出す


何年たってもどんなに時を重ねても
消えて無くならない記憶がある


光の中に  風邪の中に  匂いの中に  音の中に

あの子は私に呼びかける
私はあの子に呼びかける

涙が溢れて
ああ 私は忘れては居なかったのだと思う
忘れられないことだけが私を解き放ってくれる