病院訪問

外灯の上に鹿

 深夜自分で救急車を呼んで入院した○さんの訪問。車が駐車場に入るまで30分かかった。雨の日続きは体調を崩しやすくする。なんとか車を駐車場に入れて、受付で訪問目的を告げ無料駐車カードに変えてもらう。病棟に言ってナースセンターに許可をもらう。ここまでは比較的私の想定時間内で事が進む。病室に言ったら○さんは点滴をつけて眠っていた。ベッドには絶食絶飲と大きく札が下がっていた。食通の○さんにとってはかなり苦痛だろう。声をかけるが目覚めない。もうすぐ100歳にならんとして今ここで寝付いたら可ねつく愛そうだなあと思いつつ眼覚めるのを待つ。耳が遠いから彼女を起こすくらいの大きな声は回り全員をたたき起こしてしまう。
 待つことしばし、ふっと目を開けて私を見つけて手を振った。よほど嬉しかったらしい。早速何があったのか話してくださる。いやいやとてもお年とは思えないほどちゃんと手順を踏んで自力で救急車を呼んでここへ来たんだなあと感心した。おかしかったのは「私は本当はK病院に行きたかったのよ。あそこは病室も綺麗だし、お医者さんに素敵な人が二人いるの。でもねここ近いからと思ってここにって救急隊員に言ったの」そうか素敵なお医者さんや部屋の綺麗さを咄嗟に考えたのかあなたは。「でもここは若いお医者さんばかりなのよ」とまんざらでもなさそう。
 その後看病してくれる親戚の方が見えて、「パジャマが欲しいの」「病院指定のものを借りましたよ」「そんなのは着ないわよ。せめて花がらにして」「もうお金払ったのにもったいないでしょう」「嫌なの。着ないわよ」と延々と続く言い合いに「ああこれは退院も近いな、と思いつつ退出しました。
 長生きの秘訣はこれかもしれない。自分の気持を堂々と言えること。そして嫌なものは嫌ということ。音はとても優しい人なので憎めない。こうやって長い人生をこの人はシャンと自分で生きてきたんだなあと思った。回りにとっては扱いにくいかもしれないが、この人の言ってることはもっともなことだなあと思う。長いものに巻かれないひとは潔い。