芸術祭

夜明け雲

 姫が去年タイムリミットで描ききれずに断念し、その後仕上げた絵を出展した。姫の作品が入選したと通知が来た。去年学校に泊まりこんで描いていた絵が入選になった。素直に嬉しいと思った。描いていた時の集中を見ていたからそう思う。
 姫自身は自分が評価されたと思うよりも、あの絵が伝えたかった空気、思いが見る人の中に伝えるものを、そっと受け取って欲しいということらしい。亡くなった兄の一瞬の記憶を心のなかで抱え直し、最早同じ世に居ないのだという現実を抱え直し抱え直し、受け入れてきた時間が生み出したもの。心の痛みが生み出した作品だから、むしろ評価の対象になったことが、違和感をもたらしたかのように見える。
 この作品はコンペではなく個展で出すべきものだったなと、ふっと思った。何時か小さな画廊を借りて作品のために個展を開いてみたいと思った。家族それぞれの作品を集めてファミリー展が開けたら面白かろう。それぞれが作風の異なる絵を描くから。夢がまた一つ生まれたな。