台風が来る

修道院に続く木のトンネル

そのニュース速報で頭に「かつて経験したことのない」という言葉が使われている。かつて体験したことのないものを体験した身とすれば、この言葉が持つ不気味さを思いだす。怯える。怖くてたまらない。
 それは想像を超えた恐怖を意味する。これから来るであろう不気味さに立ち向かうにも、かつて経験したことのないものに何を持ってして耐えればよいのか。こんな時、あの震災でなすすべもなくじっと見を固くしていたことを思いだす。
 自分はいい。離れて暮らしている子どもたち、特に津波被害の大きかった最大の被災地に住んでいる娘を思う。あそこは山の上しか安全な場所はない。街全体がまた水に沈むのだろうか。堤防も役に立たないから川のそばに住む人達はどんなに怖いだろうか。避難場所はない。
 祈る。
もうこれ以上苦しいことが起こりませんように。
悲しいことが起こりませんように。
子供の葬式を出すのはもう嫌だ。
誰も悲しいことが起こりませんように。
ささやかに、しかし懸命に生きてきた人々に
耐えられない重荷を与えないでください。
耐えなければならないことをこれ以上与えないでください。
生きることが苦しみに満ち、悲しみにあふれて
もう生きていることが
あなたの恵みの中であることがわからなくなってしまう。
あの日から、やっと歩き続けているのですから。