考えてみれば

 転勤が多い家庭で育ち自分も転勤の多い家庭を作ったから、一定の時期が来ると自分がそこを去っていくということが当たり前だった。今自分の意志でこの街に住んでいる。この街を去るか留まるかを自分の意志で決めることができるのは感覚的に不思議なものだ。かつて気まぐれに土地を買って家を建てて、ああこれで動きたくなかったらここにいても誰にも文句を言われないんだと思った時、ものすごく安心した。それから長い長い年月を転勤者として暮らしても、あそこに帰ることができると思うと安心していられた。だから未だこの街にいることがあってもいつかあそこに戻ろうと思うから、不安はない。建て替えなければ住むことができないと言われても、なんとかなるさと思う。不思議なものだな。若いころふと思いついて家を持たなければきっと今不安で押しつぶされそうになっただろうな。人生ってわからないものだなと思った。