わかれうた

 ふるさとに帰りたいひとがすべてを捨ててふるさとに帰る。その人はふるさとを飛び出して人生を流れに任せて生きてきた。あちこちに不義理を重ねふるさとは決して彼に帰って来いとは言わなかった。今ふるさとは今度の震災で壊滅した。お墓だけが残ったはず。お墓参りも遠慮で行くことができなかったからその人は墓があるとしかわからない。墓守の兄弟がいるから隠れていくしかないのだけれど、それでもふるさとに住みたい。お墓に行くことができたらそれで良いのだと。貯金と年金と義援金の残りが尽きるまでの数年だけがその人の計画。そこから先の当てはない。
 わかれうたがふさわしい。春のはじまりに流れるのは別れ唄がふさわしい。いってらっしゃい。