県の芸術祭に

まだ夏風の雲の輪郭

出品するはめになってしまった姫はとうとう今夜は学校に泊まりこむことになって戻らない。開け放った窓から遠く夜汽車の音が聞こえる。こうやっていつの間にか静かに子供たちは家庭から自分の世界に巣立ってゆくのだな。本人もそれと気が付かぬ間に。親だけがその変化に気がつく。そしていつかきっぱりと子供が巣立って行く時、すでにそのことが何年も前から用意されていたことだったことに気がつく。さようならは行ってきますから始まっていたことに気がつく。
 これは自分自身がたどってきた道筋を子供もまた歩んでいるに過ぎない。そして今度はいつの間にか親自身が子供の人生からすり抜けて去ってゆく時が来る。人生の中に別れはいつも用意されている。
だからこそ今がかけがえのない時間なのだけれど。