ささやかな日々の記憶

作品名・黒猫


愛すること
なんて大上段に構えて生きてきたわけではない
ただ、ひそやかに傍に居たかっただけだ
愛の結晶
なんて思っていたわけではない
子供が欲しくてたまらなくなった
そして願いがかなって生まれてくれた子供たち
介護とか看病とか
嫁の、娘の義務だ、勤めだと思ったわけではない
ただ気の毒でかわいそうで何とかしてあげたかっただけだ



いつの間にかそうやって39年が過ぎていった
どの年月もさりげなくそこにあるだけで
ことさらに煌いている年も
この年はなければよかったと思う年もない



ああ
ただ一日だけ
特別に深く染められた糸がある
あの子が旅立っていったあの日の糸
この糸は私の命に深く刻まれている



すべての年月が織りあげていくこの人生
なければよかった一日も一時もない
その日があったから
例え痛まずには思い出すことも出来なくても
その一日があるから
私は生きてきたのだ




記憶すること
痛み続けること
思い起こし
弔旗を手放さず
ひたむきに命へと



私の結婚記念日は
ささやかな私の人生の
小さな一里塚
この一年家族として生きてきたのか
後悔はないのか



笑えるだろうか
何時かこの日々の記憶を束ねて天に返すとき
私は
ふっと笑いたい