かつて生活の場だったところを歩いた

 送別会の会場が、かつて私が住んでいた街だったので少し早めに寄って、歩いてみた。私がこの街に住んだのは今から31年前だった。若い私は怖いもの知らずだった。
 子供は長男が新一年生、次男が年少さん、長女は一歳、次女がお腹にいた。あのころ私はいろんな夢を見ていた。子供をどんな風に育てようと言うよりも、子供たちと自分がどんな関わりを持って、この中で何ができるのかをいつも考えていた。子育てのなかで変化してゆく自分を楽しんでいたように思う。
 木彫やレザークラフトにどっぷりと浸かり、時間がいくらあっても足りなかった。そんな自分を思い出しながら、少し歩いてみた。あのころあったお店はもうほとんど残っていなかった。皆どこかに消えていってしまったのだなあと思った。あのころの私が、今の私に出会ったら、嬉しがってくれるだろうか。もっと違う生き方が出来た筈だとつぶやくだろうか。
 転勤でいつも切り取られていくしかない過去の記憶を、こんなカタチで見直すことは不思議。過去に迷い込むような気持ちを味わう。もう二度とこの街に来ることはないと思いながら、街を去っていったのに。