白い花が咲くと

真夏日の夕暮れ間近

 風の道がわかる。馥郁と帯のように香りの風が通り抜けてゆく。目を瞑るとそこはさまざまな香りのベルトが流れている様だ。目が見えるということは、何か大切な物を代わりに失うことらしい。今日仕事中に車の往来の激しい道を白杖を頼りに歩く人を見た。歩道と車道はブロック一個で壁がつつくってある。その小さな壁を杖の先でコツンコツン確認しながらその人は進む。狭い歩道は人二人がすれ違う幅しかない。そこに前方からベビーカーを押してきた人がいる。その人は気配を感じて実を交わす。自転車がすり抜ける。立ち止まりもせずにその人は進む。信号のない交差点で車のきれるのを待ちながら、わたしはその軽やかで確かな身のこなしに見とれていた。わたしより少し年齢が上であろう初老の女性だった。
 夕方仕事を終えて車を駐車場に入れたとき、薄暗がりの中に白い梔子の花が浮かんで見えた。そして香りが流れた。一瞬のためらいもないまっすぐな香り。今日出会った素敵な人を思った。