春の嵐

枝の先にも春が近い

 吹き荒れる風に風景がかすんで見える。黄砂だ。この季節毎年思い出す詩がある。正確なフレーズは覚えてはいないのだけれど、「満州の大地に埋めてきた幼い息子が黄砂となって母の空に戻ってくる」という切なくて哀しい内容だった。愛しい愛しいわが子がこの黄色い砂になって戻ってくると思う。そうすることでしかなだめる事のできない,この深い痛み。戦争がもたらしたものであるがゆえにそれは個人の力を超えて巨大な重さとしてのしかかってくる。その巨大さに比べ、亡くなった幼子のなんと小さく、か細く、かそけき気配。指に残るこの黄色い砂を静かな気持ちで私は見つめる。春彼岸、母に、父に逢いに戻ってきたのかとそう思う。