今年私は善く生きただろうか

物想いに…

 沢山の人とであった。沢山話をした。沢山言葉を書いた。沢山の言葉を聴いた。そして沢山の心と触れた。それが一番私にとって大切なことだったのかもしれない。
 もうすぐこの一年が終わる。私の歩いてきた足跡を振り返ってみることはすまい。まだそのときではない。今は、もう少し先に目をやろう。まだ果たしていないことがある。たどり着いていない場所がある。その場所は薫り高い風が吹き、優しい光に満ちている。清らかな水が流れ、谷は緑に覆われている。誰の心の中にもそのサンクチュアリは存在する。
 死の近い方のそばでその方のサンクチュアリへの道を旅する。その場所の入り口で私の手を解きその人は自ら扉を開け、そして閉じる。どんな歌が聞こえるのだろう。どんな雲が流れているのだろう。扉の向こうには誰にもかき乱されることのない平安で満ちている。不足もなく、不安もない。老いるということは決して悲しいだけではない。苦しいだけではない。惨めなものではない。豊かで、大きくて、暖かいものだ。命の旅は。そのことをまだ私が手渡せずにいる人たちがいる。死を恐れることはない。死を憎むことはない。命の終わりが絶望であってはあまりに悲しいで自分の手で守っていこうとしているこ
はないか。命は希望のうちに旅立つ。死を間近にした人のそばで心からの祈りをささげるとき、私はそのことを信じている。
 今年私は自分の命に対して課せられた使命に誠実に応えてきただろうか。そして私の心は穏やかだっただろうか。人の苦しみに寄り添う人は二人分の穏やかさを託される。いつか私もそんな人になれるのだろうか。心から「大丈夫だよ」といえるように。