新聞

 新聞にイカ大根の煮方が書いてあった。昔、子供の頃食べた記憶があった。余り好きではなかったけれど、懐かしくて作ってみたくなった。畑の小さな大根を二本炊いた。懐かしい味がした。
 記憶の中にはこんな昔風のお惣菜がきっと沢山詰まっているのだろう。いつの間にかしまいこまれたまま忘れらているけれど、こうやって少しのきっかけがあれば思い出す。子供の頃嫌いだった食べ物が美味しいと感じるのはきっと私の中にあの頃を懐かしむ思いがあるのだろう。クライエントの話を聞いていて、どんなに悲しい思い出であっても、表情がふと和らぐことがある。そこに一瞬、愛しいものが横切っていくのだろう。ひとの心の豊かさと大きさを垣間見る。一面だけではないのだ。一つの情景だけでくくることは出来ないのだ。
 イカ大根を食べながらそんなことを考えていた。