穏やかな眠り

 たとえいさかいがあっても、眠りだけは穏やかなものであって欲しいと思う。お互いの人間くさいどうにもならない我をせめて眠りの中に紛れ込ませないで欲しいと思う。自分にしてあげられる最高のことは穏やかな眠りを妨げないことだと思う。人はその命の仮の死を眠りの中で体験する。心から安らかに眠れないならば命は疲れきってしまうだろう。
 親分の眠る姿を眺めながら、そんなことを思った。あと幾度、あと何千回この穏やかな眠りが保障されているのか誰も分からない。