帰りに

 仕事用のスーツを二点買う。パンタロンとスカートの三点セット。研修講師や遺族ケアのときに着用するのでほとんど黒に近い色。一着は黒地に薄いグリングレーの細い縦じま。縞と同じ色味のVネックの半そでのセーターを組ませた。もう一着は黒の変わり織の半そでのスーツ。基本のテーラードスーツだがこちらもパンツが組み合わせてある。講演とセットの一般相談面接のときは何が起こるかわからないからパンツで対応する。今年の夏の仕事着はこれで済ませる。最新ファッションは私の生活に入り込む隙が無い。形で遊べないからせめてアクセサリーで変化をつける。このところ真珠の色変わりが好きになった。ピーコックの黒や、オレンジパールや、高価なものは私のお小遣いでは無理なのでもっぱら南洋珠で楽しんでいる。形にゆがみがあったり、えくぼがあるけれど却って自然な感じがして好き。辛い仕事をこんなところで紛らわせているのを感じている。
 真珠は亡くなった妙さんの思い出につながる。おしゃれが好きで亡くなる直前までコティのパフュームを愛用していた.遺品から真珠やピンク珊瑚など夏のネックレスが出てきた。深い緑のヒスイの一連もあった。亡くなるまでの十年近くカニューレの使用を余儀なくされネックレスをつけることは出来なかった。ほとんどは娘さんが引き継いだが私の手元にピンク珊瑚とヒスイが残っている。まだ身に付ける気持ちにはなれないが、いつの日にかそっとまとってみたいと思う。その日がいつになるのか私にも分からないけれど。
 私の手持ちの白い真珠は妙さんのものと同じものを後日私が自分のために買ったもの。何故か私にも買ってとは言えなかった。娘達が18才になったとき清楚なプリンセスパールを贈るのもそんな思い出からかもしれない。