朝仕事で車に乗って移動中

二人連れの影

 交差点で胸を突かれた。交通量の多い交差点のすぐ脇の歩道の縁石を四つ這いになって磨いている人がいる。交差点の脇だから車の排気ガスをもろに吸い込む位置だ。その人は作業着を着てヘルメットをかぶり黒いゴム長を履いて、両手に布を持って四つ這いになってぎゅっぎゅっと磨いてはじりっと進む。私が信号待ちをしている間四つ這いになったまま姿勢を崩すことはなかった。時折背中が大きく盛り上がり落ちる。そのときヘルメットの下の髪が見えた。白かった。私は胸を突かれた。
 この作業にどのような意味があるのだろうか。いったい誰がこの作業を求めたのだろうか。車の中でさえ身が縮む寒さだ。コンクリートの歩道はさぞや冷たかろう。働くということはどんなことを求められても自分のできる最上のものを提供することだと知っているが、あの労働に見合う正当な賃金は支払われているのだろうか。
 通りすぎるとき私の車が排気ガスを出しませんように、彼が吸い込みませんようにと祈った。
 哀れんだのではない。なんだか無性に腹が立ったのだ。誰かに。

 私の浅薄な知識ではいくら考えてもあの作業の意味が理解できなかった。