可哀想な親分

おととい抜歯した親知らずの後がまだ出血が止まらず、傷跡が腫れてほほが変形してきた。昨夜も食事はせず、今朝も食べず出かけたが一体、身体が持つのだろうか。見ているこちらが胃が痛くなるよ。
 お大事になさい。自分ひとりの身体ではないよ。子供たちの父親の代わりは居ないのだから。一日でも長く生きて見守ってやらねばならないのだと思うよ。何故男は自分が父親だと言う事を最優先にしないのかね。仕事が大事なのは分かるが、仕事は愛情を暮れはしないよ。いくらでも代わりの人はいるんだよ。あなたが生まれる前からその仕事はあったし、君が居なくてもその仕事は誰かが変わってやれるんだよ。
 子供たちの父親は貴方しか居ない。君が居なくなったらその代わりは居ないんだよ。もっとジブンヲ大事にしなさい。
 親になった以上人間の最後の姿を生きて教えてゆく義務がある。老いる事、病むこと、死んでゆくことを示す事は親にしか出来ない、最も大事な教育なんだと思う。子供たちが老いや死を意味あることとして受け止めるか否かは、親自身がどんな姿を残したかによる。
 老いる事も、死んでゆくことも自然に穏やかに過ぎていくことを願っている。色で言えば淡い生なりからサンドベージュへ、アースカラーからグレージュへ、そしてモスグレーからダークグレイに変化してゆくような生き方をしてみたい。モノトーンは寂しいから茶色や、グリーンの混ざった透明感のあるグラデーションがいいな。時々はすんだ鮮やかな単色の光もほしい。
 親分も私も肉体的には最早若くは無くなった。肉体年齢はどうにもならないが、精神的には年齢を重ねて暖かく深くなってゆきたい。老いは忌み嫌うだけのものではなく、失ってゆく多くのものと引き換えに深く掘り下げられ蓄えられた豊かさ、老いた者だけがもてる慎ましやかな温かさがあるのだと思うのだが・・・