元気虫

という奴が居るらしい。薄い青い羽が生えていて羽音を立てながら飛ぶらしい。体はミドリと茶色の縞模様らしい。大きさは見る人によって手のひらサイズからお豆の大きさまで変化するらしい。くたびれてへたり込んでいると、空の何処からか飛んで来て左の首筋にソットタッチして元気をくれるらしい。はああ・・・飛んで来い私の元気虫。
 春は異動するにしてもしないにしても荷物を整理して捨てる。何で一年でこんなに物が増えたり壊れたままになっているんだろうかと思う。昔、盛岡で出会った人で面白い人が居た。その人は大学関係者で、ご主人がある日突然「来週から一年間某国に研究で行く。一緒に来るなら荷造りしなさい」と言う人で、一枚上手の彼女は『OK』と一週間で子供三人の学校関係の手続きから荷造りまで全て完了して一緒に旅立つと言う。
 どうしてそんなことが可能なのかと思って、彼女の日常を観察して驚いた。衣食住から人間関係に至るまで無駄なものが何も無い。「モノは使い終わったらその瞬間からゴミ」という事が徹底して居ているから彼女と居るとしょっちゅう「ごみ!」と言う掛け声を聞く。衣類も子供たちの作品も食べ物も兎に角取っておく事をしない。人間関係も実にはっきりと「貴女とはこれこれの関わりでお付き合いしているのですから、この関係が終わったら終りです」という感じだった。
 生活を切り替えるためには其れしかないのだろうが、修道者以外であれほど徹底して物事を「捨てる」人に出会ったことは無い。時々、今頃何処にどうして暮らしておられるのだろうかと思うことがある。見事な生き方だった。批判する人も居たけれど、徹底するとかえって清清しい。あの人はきっと自分の元気虫を呼び寄せる術を知っていたに違いない。「私は長生きはできないから」が口癖でC型肝炎のキャリアだった。きっとマダマダバリバリやっていると思う。キッパリと『ゴミ!』と宣言しながら。