このところ彼は

 台所で芽を出した野菜の栽培に楽しさを見出しているようだ。今日は新生姜から元気に芽が出たのを植えていた。バケツの中には三年物の長芋が育っているはず。もっぱらグリーンカーテンに利用しているのだけれど、根っこの部分は見たことがない。生きているってことだけでなんだかとってもいじらしい。ジャガイモがとれたり、この夏は何が取れるのだろうか。ネギは根っこを指しておくと律儀に伸びてもう一回の薬味はとれる。ツルナも先っぽを挿しておくとちゃんと伸びてきて再生産が可能であるし、こんなささやかなことで日々心がなごむ。私の中にも土の記憶が残っているのだろうな。
 今年は節電と居住環境の改善を願ってグリーンカーテンの強化を狙っているらしい。何が何でもと必死な様子もなく、何をやっても詰めの甘いところがあるのでいったいこの夏どんな風になるのか興味深く見守ることにした。何をやってもそつなく綺麗に成し遂げる人と、どんなにお金をかけても肝心のところの詰めが甘く、最終的にしおれた結果になる人がいる。どうやら彼は後者であろうと推察する。
 壊し屋とこっそり母が言っていたのを思い出した。修理を頼みもしないのに始めて、結構徹底的に壊してしまう子だったそうな。大切なモノはいじらせないほうがよろしいと、結婚したての私にそっとささやいた。壊し屋魔王だったらしい。なんとも微笑ましく、おかしな話だ。なぜなら、彼の母親は彼が物を壊してしまうほど夢中になることを面白がっていた。この人は子育てを楽しんでいるんだなあと思った。たくさんたくさん分解して壊してしまったらしい。私も面白がれるだけの心のゆとりがほしいな。