生きるということ

高い吹き抜けから陽が差す

自分の生きる場所を求めて
この国を出て行った
32年間の長い長い旅路
生きることは旅を続けることだと
父は君に教えたか
母は君の手を離したのか


たとえどこに生きていようとも
一飛で会えるではないかと
若い日に君は
小さな荷物を持って
愛する人
飛び立って行った


とうとう
彼の国で私と君は
相まみえることもなく


君はまた新しい旅へ出かけてしまった


そこに
父は居るか母は居るか
私の大切なあの子と
君は出会っただろうか



同じ家に住み
同じ食事をし
同じ屋根の下で
同じベッドに眠った
姉と妹は
どこまで行ってもほどけることのない糸を結び合って
それぞれの家に住み
それぞれの食事を整え
それぞれのひとを愛して生きてきた


振り向けば
幼い日々の
なんと暖かく暖かく暖かく


いつの日にか
今度は君が私に道を示すだろう
死ぬことはひとつの変化にしか過ぎないのだと


この空の向こうに
この海の向こうに
君がいるから
懐かしくいるから
そう思いながら暮らしてきたのに


もう
私の指の先に
君への道はない

この手は
空を彷徨う