室生犀星
室生犀星の詩に、帰りたいけれど帰ってもきっと自分の居場所はそこにはないだろう、帰りたい帰りたい、でも帰ってはいけないのだ、との思いを切なく綴った詩がある。若いころこの詩の深い悲しみがわからなかった。ただ後ろのない人生の歩みを思い、自分の胸の中に畳み込んで生きてきた。
今、老いて病んだひとが津波で失われてしまったふるさとに敢えて帰る決断をした。その気持ちをこの詩に重ねて私は思いめぐらしている。
ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや
[小景異情ーその二]
どうかふるさとが、暖かな場所でありますように。そう願う旅立ちの別れだった。深く頭を下げ健康と幸せを願ってさようならを告げた。