パン

 何でこのとき強力粉なの?と思われるでしょうが、私自身何でだろうと考えた。ハタと思い当たった。電気が無い、水がない、ガスが無いとき米は食べられない。麺類も駄目。唯一そのまま食べることの出来る主食がパン。自家製のパンが一斤あれば、何とか家族の一回の食事をまかなえる。そうか、緊急食の確保だったんだと思い至った。不安感がパンを焼かせていたのかと思う。その昔、旧約聖書出エジプト記ユダヤ人が種無しパンを焼いて逃げた故事がある。イーストで醗酵させる時間が無いから小麦をこねてそのまま焼く。食べ物の確保。過ぎ越しのパン。
 今、親分はパンを仕込む。焼きたてのパンは日常の穏やかな思い出につながる。こんなささやかなことに慰めを感じる。これから私達の生活は静かに元に戻ってゆくだろう。3・11を忘れることは無い。この原点から始まる。