親分がいない時間

空を切り取って胸に収めたい

 これが私の日常だった。記録を書きながら、静かな時間の流れをいつくしむ。親分が家にいるようになって、今までの日中の自分の時間が持っていた安定作用を見失ったのだと思う。それは彼にとっても同じこと。御互いに仕事を持ち、一緒に暮らしながら異なる時間の流れを持っていたのだから。人という生き物は、かにかくも不器用なものだと思った。この何もないはずの空虚な時間が実は私にとってとても必要な大事な時間だったのだと気がつく。ほんのひと時でいい、ゆったりと味わっていたいと思った。
 また私は何もなかったように日常の中に埋もれていくだろう。埋火のように、心がふわりと暖かくなり、その暖かさは身体に染み渡ってゆく。悲しみが深ければ、その深さゆえに火のぬくもりはかけがえのないものになる。炎には程遠いかすかな火だけれど。
 時間よ止まって。ほんのひと時だけでよいのだから。あまりにも大切な物が人生を駆け抜けていってしまうから。