クリスマス

大雪になった

 子供時代からこの日の朝は飛び起きた。サンタがやってきたからだ。嬉しくてそれを引っつかんで社宅を一軒ずつ回って見せて歩いた。ご近所は如何思われていたのだろうか。嫌な思い出がひとつもないからきっと一緒に喜んでくださったのだと思う。
 今日の訪問先は末期がんの方お二人。死の影がすでに身を染めておられるのにいたってのどかな会話を交わす。○さん、何かご希望はないかな。「何もないわ」シャンソンを愛し、フェンディを愛し、買い物は地元資本の藤崎デパートと東急ホテルの中のブティック。市の一等地に住んでおられて散歩がてら毎日のように立ち寄っては何かちょっとしたお気に入りを買うのが楽しみだったという。「何も買わなくてもいいから、デパートに行きたいな」わたしは思う。もうすぐこの人は病院の人になるだろう。そうなったらウィンドーショッピングの夢はかなわない。今なら付き添いボランティアを手配して、タクシーで楽しむことは出来るだろう。今ならば・・・。
 「何とかボランティアを探してみる」と約束する。無理だとわかっていても、「もしかしたら」にかけてみる。私が本気にならなければ、相手も本気になって希望を持たない。諦めるから。諦めたから。が口癖のこの人に、未だ間に合うことをいっぱい思い出してもらいたい。諦めることは生きている楽しさを捨ててしまうことだと思うから。
 クリスマスに私が彼女にプレゼントしたかったのは「生きていることは楽しい」という気持ち。