うれしい話

 今日は昔馴染みのわさびやさんの出張販売に出くわした。我が家は子供七人。そこは六人。お互いに赤ん坊連れの出会いだった。あれから十数年、いつもどこかでこのわさび屋さんのクレソンを買った。毎年切らしたことがない。不思議。彼らは車で移動販売をする。私はそのスケジュールを知らない。それでも私たちはめぐり合う。今日の店番は末っ子の小学生。「あらまあ。あなた一番下の坊やね。あなたが赤ちゃんのころお母さんの背中におんぶされて上の子達はワゴン車で遊びながらお手伝いしてたわね。海岸の朝市で。頑張ってね」彼はちゃんと私におつりをくれてクレソンを袋に入れてくれて「ちょっと待って」と一掴みおまけしてくれた。それは昔から彼のお父さんの商売のやり方と同じだった。なんだかすごく嬉しくなって「ヤッホー」と叫びたくなった。
 その代わりにミニバラを二鉢買った。今この季節もうミニバラは花を咲かせ終わってよれよれになって、捨てられたり投売りになったりする。親分はそれを買ってきて枯れた花を切り戻し、肥料をやり、毎日水をやっている。少しするとバラはまた葉を伸ばしつぼみをつけて花を開く。生き返ったように見える。彼はそれが楽しくていつもぼろぼろのバラを買ってくる。
 見捨てない。諦めない。生涯人間相手にそういう仕事をしてきた。何に対しても同じ生き方しか出来ない不器用な彼が、ヤッパリ私は好きだなと思った。さあ今夜は徹夜になるぞ。