忙しさに流されて

ミニバラ

 老いた母の見舞いに行くことを先延ばしにしている。夫の病気のこともあった。仕事もあった。それらは理由にはならない。わたしは心の奥で「老いてしまい、kちゃんの言葉を借りるまでもな「エイリアンになってしまった母」に会うのが辛かったのだ。
 快活で機転が利き、創造性あふれた賢くて強い母を私は失いたくなかった。いろんなことがあってすれ違いの多い私と母だから余計母のイメージは私の中で美しく大きい。
 現実の母はもう老いてわけがわからない、怒りっぽい不機嫌な老人だ。もうわたしのことも判別できないかもしれない。それが現実なのに、判っていても、目の前で起こる不思議な出来事を、私は受け入れることができないのだろう。伸ばして伸ばしてもう伸ばせないくらい、母の訪問を先延ばしにしてきた。
 夢を見た。仕事の電話をかけたら職場ではなく、電話口に出たのはKちゃんのお連れ合いだった。「母さんは死んじゃったよ」夢だとわかっているのに震えた。予定のすべてをキャンセルして会いに行かなければと思った。たかが夢ではあっても、これはもう私の心の淵が悲しみであふれ出していると知らせている。会いたい。そう思っている自分をもう押し殺す必要はない。会いに行こう。たとえ私が、最早この世にいない母の姉妹の誰と思われてもいい。私が誰であるかは問題ではない。私が私であり、私が母の娘であることはゆるぎない事実なのだから。
 親分の怪我治療が一応終了して、頚椎の治療だけになったので今なら行ける・・・彼が一緒なら行ける。
 キャンプの予定をどうしようか。家族に約束してしまったけれど、キャンプは逃げない。家族と亡くなった息子の為にメモリアル・キャンプをしようと思った。その機会は親分の体調が回復すればいくらでもあるのだから。
 夢は心に押し込めて蓋をした真実の思いをあぶりだす。私から私への手紙。夢占いとは違う。心理の水底に隠された真実の思いだ。だから両手で掬い取りその示すところを読み取る。そしてその伝えることを現実化する。見過ごさない。