ねむりの不思議

夕日の中の歩道橋

 私が出会う人たちはいろんな形の眠りについて語る。眠れない人もいるし、眠りが細切れで苦しいという人もいるし、朝早く目覚めてしまいそのまま何もできない人もいる。それから眠り続ける人もいる。悪夢が怖くて眠ることが恐怖になっている人もいる。
 そのすべてに共通しているのは、眠りを軸に生活が困難になっていることだ。眠くなったら眠る。疲れたら眠って疲れを取る。この当たり前のことができなくなると、人は生活のすべてが混乱してしまう。赤ちゃんのときから自然に成長につれて共通のリズムを習得してゆくがそのリズムが狂いだすと、社会の中で機能してゆくことそのものが困難になる。生活の質を保つためには、眠りが鍵になっている事を知っていたほうがよいと、このごろ強く思う。
 眠りはいつかやってくる死の短いメッセージ。人は生涯緩やかに生と死の間を漂い流れてゆく。このことが判ったとき眠りが持つ役割もわかったような気がした。人は生きることそのものが壊れてゆく恐怖を直感するから、眠りの異常を恐怖と捕らえるのだろう。
 夕方仕事から帰って眠くなった。夕飯のしたくもせずにコロンと毛布に包まって眠った。ゆっくりとゆっくりと眠りに沈んでゆく。穏やかな時間だった。