そんな時期だったっけ?

ひこうき雲

 前期試験が終わって、姫は久しぶりに学校に行く。もうそんな日が来たのか。あっという間の三年間だったなあと思う。それぞれの試験に追われてクラスメイトがそろうことは無いだろうけれど、卒業後の進路が決まった子も、まだ決まっていない子もそこは抑えて最後の一日を過ごす。思えば厳しい日々だったなあ・・・。18歳、いつの間にか自分で自分の進路を決めることができるまでに成長した。これからは、親はいざというときの防波堤になればそれでよいのだ。本音を吐けば、少し寂しいかな・・・
 卒業式は三月一日。何が変わってゆくのだろうか。変わるのは彼女だけではなく、親である私たちもかかわりの位置が変わる。親自身が自分は如何にあるべきかをもう一度問いなおさねばならない。もはや優先順位第一であった親の役割は後方に交代する。そして これからの自分はどこに足を置いて子供とのかかわりを持ってゆくのかを問われる。問いかけるのは自分自身だ。社会はもはや親としての私を求めず、私もまた親という役割を社会の中に押し出そうとはしないだろう。子供が社会的責任を問われることをしでかさない限り、親としての最前線は終わった。あと二年彼女が成人し、さらにもう二年たって社会人となったら、もっと私の立ち位置は後退するだろう。それはそれで私本来の場所、個人としての私の場所に戻るということに過ぎない。それはきっと、もっと自由でもっと軽やかなものになるだろう。自分の都合だけで、自分の気持ちだけで一日の時間を区切ってゆけることは幸せなことだと思う。
 今それを思うと暖かな気持ちがわいてくる。初めて子供が手を振りほどいて、自分の目的に向かって自信を持って歩き始めたとき、私は久しぶりに自分の歩調、自分の歩幅で歩く自由を感じた。きっとこれから来る日々はその自由さをまた味あわせてくれるのだろう。姫はほとんど親の手を煩わせることは無いこだったから、勝手に親があれこれ世話を焼いていたのだろうけれど・・そう思うとそこはかとなく寂しい気持ちもわいてくるよ。