旅にでよう

 身体ごとの旅が難しいから、せめて心だけでも旅に出よう。どこに行きたいの?と聞いてみる。時代はいつ?国は?大好きな音楽を聴きながら心をさまよわせる。扉を開けて私の地図を片手に持って。思い浮かぶままに地図を描きスケッチを添える。今日は街道を行こう。右は海が見える。岩に打ち付ける波。海鳴りが聞こえる。磯の香りもする。左には林と丘が広がっている。道は白く乾いている。季節は初夏?それとも夏の終わり?空は晴れているの?雲はあるの?海の気配のほかに何があるの?小鳥の声がする?虫は飛んでいるの?道端に何が咲いているの?一つ一つの風景を組み立ててゆく。スケッチブックに色鉛筆で描かれた景色は、私の心の中にある風景。ここからさまよい出て私の今がある。ほんの少し時間を越えて迷い込んでみよう。
 描くのが難しければコラージュでいい。箱庭よりも手軽で自由度が高く自分の中心に迫ってゆく作業。苦しまずに楽しみを味わいながら旅をしてみよう。セルフコントロールのための大事な時間。とらわれないために。傷つかないために。自分を守るために。やわらかさを保つために。自分を大事に扱えなければ他者を大切に扱うことはできないと思う。主は「自分のように人を愛しなさい」とおっしゃった。当たり前でしょう、誰だって愛しているよと思うかもしれないけれど、自分と和解し、自分を許し受け入れ、大好きといえるようになるまで沢山の時間が必要だ。私たちが一番愛していないのは自分自身。そのことに気がつくと、生きることが罪悪感でなくなる。さあ、旅に出ようよ。