朝火事

 朝早くけたたましくサイレンが鳴り気になって外を見たら煙が上がっていた。火事だと思った。幼いころ大火を目にした。昔は家が燃えやすかったから、あっという間に火が飛んだ。屋根も柾屋根だったから、火がついて燃えながらまるで一斉に飛び立つ鳥のようにあちこちに飛んでいった。それは空に不思議な生き物が現れ、逃げ場の無い恐怖を感じさせた。消防車のサイレンだけではなくうううーーーうううーーーという今まで聞いたことの無いうめき声のような、咆哮のようなサイレンが鳴って、風向きを気にしながらバケツやお風呂に水を用意した。情報はラジオしかないが、そこで緊急警報がなされたのかは知らない。大人たちが自転車で走り回り大きな声が飛び交っていた。空気が煙に満ちその後幾晩も夢を見た。あれから幾度か大火を見たが、自分で罹災することは無かった。ありがたいことだと思う。それでも火事に関して心を揺さぶられる恐怖があるのは、幼いころの火事の体験だと思う。消防車のサイレンを聞くとそれがどんなにかすかであっても耳が音を拾う。
 今日の火事は、アパートが一軒燃え、類焼は無かった。人的被害も無かった。お気の毒と思ったが命に関わらなかったことは幸いであったと思う。火事はいつ自分が火元になるか、もらい火をするか分からない怖さがある。せめて火の元だけは最優先で気をつけようと思った。