段ボール箱にいくつか

けやき通りの夕暮れ

 絵葉書や、便箋、切手など通信手段を抱え込んでいる。誰かが受け取って気持ちを通わせることを予測して買い集めたものなのにひっそりと箱の中で老いてゆく者達。かすかに経年の痛みが現れ、もろくなってゆく手触り。手に入れたときは、確かに相手がいたのに、今はもう相手は命の岸辺を異にしている。それが悲しい。
 新たに出会った人たちと、また違った思いで、ここに気持ちを包んで送ろう。幸せな気持ち、暖かな思い、優しい手触り。それだけを書き送りたい。怒りも、抗議も、追及もこの封筒に入れる気持ちにはなれない。それらが、力を持っていた時代が確かにあった。人は言葉を信じ、言葉に力を感じた。今、言葉そのものが幻想になるつつある。何が真実で何が過ちで、何が偽りであるのか。それすら複雑に絡み合っていて単純には判断できない。
 何が真実なのか。誰にとっての真実なのか。そのことを考える視点を失ってはいけないと、思う。