文字

 心に病気を抱えている方と接していて、心の調子が一番先に形として現れてくるのが文字だと思う。短い日記を書いてもらっているが、心の状態がよくないと文章よりもまず文字が乱れてくる。大きさのバランスが崩れ、形が崩れ、本人でさえ何が書いてあるのか読めなくなってくる。眠たいから、無意識に書いたからという言葉が添えられることもあるが、今その人の心がどういう状態であるかをはっきり表現している。
 この症状(といってもよいと思うが)が出だすと、立ち直りが難しい状況が始まる予兆であることが多い。字が汚い、汚くなった、と軽く見過ごすことは大事なサインを見落とすことになる。こうなる前に薬でコントロールすることも大切だし、カウンセリングで支えることも大切だ。お互いにできる最大のことをすることでしか、立ち直りのきっかけはつかみにくくなる。本人の疲労感や、異常な眠気がある場合もある。服薬が乱れていることもある。ひとつひとつは、ちいさな兆候だが、それをつかんでいないと異変に気がつかない。
 同じ病名では傷病手当はもらえないから、今回休職したらその後の生活が成り立たなくなる。その不安がまた症状を重くする。生涯背負って行かなければならない病気を持ちつつ、ごく普通に社会人として仕事を続けてゆくためには、このシステムをもっと柔軟に利用できるようになったらと思う。死ぬまで生活の不安を抱えながら、病気と共に生きてゆくのは厳しいことだと思うから。
その後、この人は主治医から診断書をもらって一ヶ月未満の病休をゲットした。休業中の生活計画表を一緒に作ろうと思う。せっかくの休業日。大切にしようね。べったり一人でいることはよくないので何回かに区切って修道院に宿泊して心と身体を休めることを考えている。神様が奪うために病を与えたのではなく、そこに新たな道への扉を用意しておられるのではないかと思う。とりあえず明日緊急に面接をセッティングした。