失われてゆく時間

前へならえ!

 担当している方が、がんを発症した。一人で生きてきたから、一人で入院して、一人で手術を待っている。仕事の関わりなので、個人的にお見舞いに行ったり、慰めに行ったりすることができない。だけど今その人は私を必要としている。ベッドサイドで手術までの不安を見せずに、明るく振舞っているのを見ているのは辛かった。同じように沢山の人を見守り、旅を共に歩き、旅立ちの準備をしてきたから、その心の嵐が手に取るように分かる。1ヶ月間絶飲食の後大きな手術をする。何本もの管と、体外に数種の液を採取するためのバックをくくられ優しい笑顔を見せている。脳梗塞で右半身の自由を失い、今また内臓を失おうとしている。誰も悲しむ人がいないのではない。あなたに出会った沢山の人が、あなたを思っている。私もあなたを失いたくない。だけど今、私にできることはあなたがあなたらしく、この旅を続けるのを見守ること。苦しかったら抱きしめてあげる。話したかったら聴いてあげる。さすって欲しければさするよ。
 いっそ仕事の関わりが解けたならそれができるのだけれど・・・今私たちにできるのは月1回の面接だけ。せめてその時間を密度濃く共にいよう。生きている限りまた会えるから。