昔の毛糸

杉の初冬

 母たちの残した毛糸を引っ張り出してショールを編んでいる。細い毛糸なので編んでも編んでも終わらない。軽くてふんわりと体にまとわりついて暖かい。指先から祈りがこぼれてゆくとしたらこんな感じなのかもしれない。祈りながら一針一針編む。このショールに身を包む人がさいわいでありますように。守られますように。心の中に浮かぶことをゆっくり味わいながら編む。
 この毛糸を買ったとき、母は何を編むつもりだったのだろうか。それに自分が子どもたちのセーターを編んだ残り毛糸を編みこむ。これを編んだときはどの街だっただろうか。毎年毎年子供たちのセーターを編んだ。楽しかった。みんなおそろいでかわいかったなあ。
 思い出すことがたくさんあるのはうれしいことだ。