何でも食べてしまいたい

秋口の階段

 なしが出ている。ぶどうが並んでいる。林檎がある。もうくらくらする。何て果物売り場は輝いているんだろう。少しずつ全部買って帰りたい衝動に駆られる。駐車場からどうやってこれを運ぶんだ。ぶどうなんてつぶれちゃうよ。と思いふと我に返る。そしておかしくなる。昔、八歳になったばかりの時北海道から内地に転勤になった。そこで初めて果物がこんなにも沢山の種類があることを知った。昔は輸送手段が今ほど発達していなかったから、限られた野菜や果物しかなかった。jijiが東京に出張すると珍しいものを一杯買ってきてくれるのが嬉しかった。今思うと何倍も美味しかったような感じ。遠い昔の味はそれだけで特別。今この暮らしの中で何が輝くものとして残るのだろうか。余りにも均一化されて季節も土地柄も希薄になって、寂しい。
 この忌々しい口の中の嵐が収まったら何でもいいから口いっぱいにして飲み込んでみたいものだ。