旅するために

この道を歩こうと決めた日
一冊の黒いノートを買った
厚い表紙がついているから
ひざの上においてきちんとした文字が書ける

与えられた言葉が私の道案内
風が吹くままに走ってゆく雲のように
はるかに見えているあの光の下へ



旅人であることは
私の召しだし



出会った人に
預かった言葉を分かち合いながら
私は旅を続けたいと願い
心のままに歩いてきた

あの人と私の道が一点で交差した
ではまた
ひとところにとどまることを潔しとせず
旅人であり続けて
あの人は今ふるさとの扉を開けた



少し体を前に倒して
毎日毎日
歩き続けて
あの人は風を捕まえて一息に帰っていった





心よわたしのこころ
この道を歩こうと決めて
揺らぐことはなかったのだろうか
引き返したいことはなかったのだろうか
きりりと引き絞った弓のように
一点に向かって思いを込めていきとおしたのだろうか




風は気ままに吹き抜けてゆく



私のたびはまだ途中
ノートもまだ空白が埋められては居ない
預かった言葉を
手渡し終わるまで
私はこのたびを続ける