出かけてゆく家族にほんの少しでも違和感があると一日心に棘が刺さっているように痛む。今朝姫の鞄にGSのロープが結ばれているのを見てザワットした。スカウトたちがえび結びと呼ぶ結び方をしたロープで何のことも無いのだが、私の心に鮮明に飛び込んできた。デジャブ。いきなり「なにするつもりなのそれ」と投げた私の言葉の調子がきつかったのか「なんでもない」と投げ返してばたんとドアを閉めていった。こんな小さなやり取りでも朝登校時に起こるとめげてしまう。
 感じ取る力は何十年も訓練してきたし、感覚も磨いてきた。それゆえに他の人なら気にも留めないであろう小さなことが見過ごせなくなる。丁度絶対音感を持っている人がほんの僅かはずれた音楽をエンドレスで聞いているような感じかもしれない。目の端、耳に微かに聞こえる言葉、何気ないしぐさ。それらの影に無意識にこめられた意識を感じ取ろうとしている。人間は言葉で発している情報量よりも遥かに言葉以外で発信している情報量が多い。そしてその情報の方がその人の心の中を表現している。受け取る側も二重に情報が与えられたときは言葉以外の情報のインパクトの方が強い。だから心を読み取られないようにするときは、言葉以外の情報源を極力ゼロにしようとする。それでも人はその存在そのものから多くのものを伝えている。相手が感じ取ることは阻止できない。朝のほんの一分にも満たないやり取りが今私の気持ちを激しく揺さぶっている。しかも電話を置いていったから連絡を取ることもできない。最悪。