不思議君

 今日も不思議な人に出会った。人間は善意だけで生きてはいけないものだろうかと問いかけてきた。彼は自らその生き方を実践しているらしい。例えそこに悪意があっても、行為が裁かれるべきで人間そのものは改心すれば赦されねばならない、基本的に人間の中に悪は存在できないのだとか何とか・・・・・彼と何回かに分けて対話したが、星の王子様の本に初めてであったときのような感覚だった。言っている事が正しいか間違っているかを判断するほど深く話を聞いたわけでもなく、只行きずりのさりげない会話だったが、不思議な感触の会話だった。
 時々現実からふっと皮一枚飛び越えて生きている人に出会うと、改めて自分の立っている場所を見つめなおさずにはいられなくなる。そんな時は何が正しくて何が間違っているかよりも、相手の真剣さに押されてしまう。そして眩しくなる。彼は「世界中の人が、ああ生きていて良かったと思える世界がいつきますか」と私に聞いた。その瞬間「私もそれが知りたい」と思った。たった一度の人生、たった一度の命の営み。なぜ生きていて良かったと思えずに散ってゆくのだろうか。いたましい。(方言だがこれ以外で表現できない感情)
 明日の命が保障されず今この時しか手の中に無い人の言葉は研ぎ澄まされて無駄が無い。彼が「生き急いでいますのでお先に失礼」と去って行った後、暫く私は身動きが出来なかった。心の中で「君に幸あれ」と祈った。何が正常で何が正常閾から外れているのか、そんなことを越えた向こうに軽やかに駆け抜けていくようだった。