医大

 家族が岩手医大に入院していた事があった。私は面会のたびにつらくて心の切り替えをするために、近所にあるカワトク一番館を覗いたり向かい側にある光源社の支店を覗いて小さな物を買った。光源社で行く度に買ったのは柳さんのカトラリーだった。テイースプーンやフォークやスープスプーンを何本づつか買い求めた。必要だったからではない。あのシンプルな銀色のスプーンやフォークに自分のいらだった気持ちや悲しみを重ねて浄化したかったのだろう。かなりの本数が溜まったとき、病はいえないまま家族は我が家に戻ってきた。岩手医大の前の道端に車を置いて駆け込んで洗濯物を渡した事もあった。あの道を通ると、あの頃の懸命な毎日が押し寄せてくる。カワトク一番館に江刺市のお菓子やが作っているエンガーディナーがある。このお菓子は、アシジのフランシスコが亡くなる直前に食べたいといって取り寄せさせた蜂蜜とバターとくるみのパイである。くたびれ果てた時この小さな一切れを食べた。大地の力が伝わってくる力強いお菓子だ。ここのエンガーデイナーは東京のどのお店のものよりも美味しい。500円という安さも魅力。疲れたときにブラックコーヒーと一緒に食べるとなくした元気がまた湧いてくる気がする。
 ふとそんな日々を思い出した。病む人と、その家族に平安を祈る。今夜も安らかな眠りが訪れますように。