何をしたいのかと聞かれたら

 旅をしたいと答える。気持ちの落ち着く旅をしたい。何も買い物なんかしなくてもいいから、そこで生きている人の傍らで、黙って同じ風に吹かれてみたい。目をつむって空の香りをかいでみたい。遠く流れて行く音を聞いてみたい。
 この世とあの世の境目はあいまいで本人には定かに隔てがあるものではない。残されるものにとって別れは歴然としているが、去ってゆくものにとってそれはもう一つの旅立ちである。その気持ちを抱えながら、今生きていることを味わいながら、旅をしてみたい。やがて身軽に体さえも置いて旅立つ前に。