私が仕事をしている間

二歳・・佐藤忠良作

 親分がほんの少しの時間を生かして写真を撮りに行ってくれた。県立美術館は緑の中に彫像が置かれている。はっと立ち止まるくらい美しい。一瞬でもいいから現実の重さを忘れられると、勇気が戻ってくるような気がする。人生は美しい。こんな言葉をすっかり忘れてしまっていた。何が起ころうとも私は生きている。今日まで生きてきたことに、取り返しのつかない思いはあっても、それもまた私自身の生きてきた姿なのだから。例え何がこの先待っていても、きっとあごをしゃんと上げて、生きようとするだろうな。私の取りえはそんなところだろうな。いただいた命を精一杯に生きようとするところくらいかな。
 美術館はひたむきだった若いころの自分を思い出させてくれる。夢を見て、夢を食べて生きていた時間があったことがすごく大切なことだったのだと思う。
 美しい物を美しいと思うことが出来る、それを美しいと思う人が周りに誰もいなくても、感じ取ることが出来る。そんな感性をいとおしいと思う。みなそれぞれが持っている人としての力なのだけれども。