以前から気になっていた方の引越しが決まった

八木山動物園・しろくま

 これが最後の訪問。もう二度と会うことはない。生きてきたことが悲しいことばかりではないと、思い出して欲しいと願う。広げられたアルバムを一緒に見てあげることももう出来ない。広げられたままのページを閉じることもせず、必要な書類を調えてゆく。名前を書くことも出来なくなってしまった。もう書類に署名することもないのだろうと思う。ゆっくりと手を添えてお互いのぬくもりを感じている。老いてゆくこと。やがてこの日々も記憶されることなく消えてゆくのだろう。ほとほとと涙が落ちる。帰りしなに一枚のカードを床の上で拾った。見ると区の図書館のカードだった。名前は亡くなった息子さんの名前だった。そっと小引き出しに入れた。捨てられることがありませんように。思い出はほろほろと端から崩れて曖昧になってゆく。せめて何がしかの記憶が残るものならば繋ぎ合わせて物語ることも出来るだろうに。