思い出

たどってゆけばたどり着くかもしれない

 ふるさとを追われて既に40年。戻ることもたずねることも許されない方の話を伺った。最早自力で出かけることはできず、かといって付き添ってくれる肉親はもういない。遠くはなれて墓参りもできない。そんな人が「のし梅」を手に入れる機会があった。思わず10キロ頼んでしまった。
 周りはあきれあわてたが、最早商品は届いてしまい返品もできない。その方はそんなにもふるさとの味を恋焦がれていたのだ。胸が熱くなった。
 人にはそれぞれソウルフードがある。私は何がその思い出の食べ物なのだろうか。家に戻って幼い頃大好きだった食べ物を思い出した。炊き立てのご飯の飢えにバターをひとかけ、おしょうゆをひとたらし。北海道で食べたバターご飯。もうあのときの若かった父も母もいない。懐かしく切ない味だった。